遺産相続で必ず行う遺産分割協議では一体どんな話し合いを行うのか?
更新日:2021年09月29日
自身が法定相続人となるような家族や親族が亡くなった際、その遺産を引き継ぐ為に行われるのが遺産分割協議であることは、これまでのコラムでも何度か触れてきました。
特に遺言書が無かった場合には、必ず必要になってくる遺産分割ですが、ここでは、そもそも、その遺産分割協議がどの様なもので、どうやっておこなわれるのかをお伝えします。
目次
遺産分割協議とは?
相続人が一人であれば遺産はその人が全て相続します。また、有効な遺言書があれば、その遺言書に指定された通りに遺産分割をします。相続人が複数いて有効な遺言書が無い場合、誰がどの遺産をどれだけ相続するかについて決める必要があります。このために相続人全員でおこなう話し合いが遺産分割協議です。
遺産分割協議を始める前に
遺産分割協議をおこなうのに必要な情報
有効な遺言書が無いこと
遺言書が公正証書遺言であったり、保管制度を利用した自筆証書遺言であったりすれば、それぞれ公証役場と法務局の検索システムを使って探し当てることができます。故人が遺言書を残しているかどうか不明なときは、まず、これらを検索してみましょう。
遺言書が保管制度を利用せず個人が保管しているものであれば、探し当てるより他ありません。遺言書が発見されない限り、遺された家族が故人の遺志を反映することはできません。家族の想像が及ばないような場所に保管されている可能性もあります。思い当たる限りの探索をしましょう。結果、遺言書を発見できなければ、遺産分割協議を始めましょう。
相続人の範囲と財産の範囲
遺産分割協議をおこなうにあたっては、誰が相続人でどんな遺産がどれだけあるかを把握しておかなければなりません。そのために必要になってくるのが、相続人の範囲と財産の範囲の確定です。これらの調査方法については、コラム「相続人の調査と相続人の範囲について知ろう!」をご参照下さい。相続調査にあたって注意すべきことは、コラム「相続調査の段階で生じた相続問題を解決する方法」で説明してありますので、こちらもご参照下さい。
法定相続分
遺産分割協議では、法定相続人の誰がどの遺産をどれだけ相続するのか、相続人全員で同意しさえすれば自由に決めることができます。ただ、自由にどの様に分けても良いとはいえ、どの様な分割が世間一般的に妥当な分割なのでしょうか。
民法では、法定相続人が定められているだけでなく、これらの相続人が受け取る相続分が割合で示されています。法定相続分に応じた遺産分割を一つの参考にすると良いでしょう。
法定相続人に順位があることは、コラム「相続人の調査と相続人の範囲について知ろう!」で説明しました。法定相続分は、それぞれの順位ごとに異なる割合で法定相続分が定められています。
まず、配偶者と第1順位の子が相続人の場合、配偶者の法定相続分が全財産の1/2。残りの1/2を子ども全員で等分することになります。たとえば、子どもが一人であれば、その子が1/2、二人であれば1/4ずつといったぐあいです。配偶者がいなければ、子だけで全財産を等分に分けることになります。
次に、配偶者と第2順位の両親が相続人の場合、配偶者の法定相続分が全財産の2/3。残り1/3を両親が等分します。この時も片親であれば、その親が1/3全てを相続し、配偶者がいなければ、財産の全てを両親が等分します。
最後に、配偶者と第3順位の兄弟姉妹が相続人の場合、配偶者の法定相続分が全財産の3/4。残り1/4を兄弟姉妹が等分します。
遺産分割協議の手順
相続人全員とは?
法定相続人に相当するはずの人が既に亡くなっている
法定相続人となるべき人が相続の発生よりも前に死亡していた場合、第1順位、第3順位の場合には、死亡した人の子(第1順位では故人の孫、第3順位では故人の甥姪)が代わって相続人となります。これを代襲相続と言います。代襲相続をするべき人も既に死亡している場合には、第1順位の場合は、さらにその子(故人の曾孫)が代襲相続をしますが、第3順位ではさらにその子が相続人になることはありません。
したがって、相続人全員でおこなう遺産分割協議において、法定相続人に相当するはずの人が既に死亡していれば、その代襲相続人に当たる人が遺産分割協議に参加することになります。
相続人に認知症の人がいる
法律上の手続を有効におこなうためには、本人にその手続の効果を理解できる判断能力(意思能力)が必要です。これは相続手続の一部である遺産分割協議でも同様です。では、相続人が認知症などで意思能力が無い場合はどうすれば良いのでしょうか。
この場合、当該相続人に成年後見人をつけ、この成年後見人が本人に代わって遺産分割協議に参加することになります。成年後見人を選任する為には、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てをします。一般に成年後見人には家族がなる場合もありますが、遺産分割協議を控えているような場合には、親族間で利害が対立することにもなるので、法律の専門家が選ばれる可能性が高くなります。申立から成年後見人が選任されるまで、2か月から半年程度かかる様ですので、遺産分割協議を開始するまでにそれなりの時間を要することを念頭に置いておく必要があるでしょう。
成年後見人は本人の権利と財産を護るため、遺産分割協議では法定相続分の確保ができない協議案は、まず受け入れられないことになります。
相続人に未成年者がいる
一般に、子が未成年の間は親に法定代理人となって子に代わって法律行為を行います。しかし、両者が相続人である遺産分割協議の場面では、親子の利害が対立してしまいます。この場合は、家庭裁判所に請求して特別代理人を選任します。申立ては専用の申立書と必要書類(本人と親権者の戸籍、特別代理人候補者の住民票、遺産分割協議書案など)を本人の住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。受けた家庭裁判所では、判断のためにさらに書面で照会したり、直接事情たずねたりする場合があります。特別代理人は、家庭裁判所の審判で決められた行為(書面に記載された行為)について代理権などを行使することになり、これら行為が終了したときは任務を終了します。
相続人に行方不明者がいる
長らく疎遠になっていて現住所がわからず連絡が取れない相続人がいる場合、それどころか生死さえ不明な相続人がいる場合があります。それぞれの場合の調査方法については、コラム「連絡の取れない相続人を探す方法」(※近日公開)をご参照下さい。
コラム「相続人の調査と相続人の範囲について知ろう!」の「行方不明者」でも説明しましたように、家庭裁判所で失踪宣告が承認された場合は、その相続人は死亡したものとして遺産分割協議を進めます。したがって、代襲相続人がいる場合には、その代襲相続人が遺産分割協議に参加します。失踪宣告が承認されないようなケースでは、家庭裁判所が選任した不在者財産管理人が遺産分割協議に参加し、以後、不在者の財産を管理することになります。
相続人全員で話し合うとは?
遺産分割協議は全員が合意することで成立します。このため、遺産分割協議は相続人全員で話し合わなければ無効であるとの説明がされますが、これは必ずしも相続人全員が一堂に会して話し合いを重ねなくてはならないことを意味しません。また、一堂に会さなくても、オンライン会議やメール、電話などで話し合うことは可能です。全相続人が一度に情報を共有する必要もありません。相続人全員が内容に異議がない状態になり、話し合った内容を正確に記載した遺産分割協議書に押印すれば足ります。
いつ頃話し合えば良いのか?
仮に相続放棄をする場合、その期限は相続の開始を知った日から3ヶ月です。裁判所への申立書類の準備のことを考えると、故人が亡くなってから2ヶ月を経過するまでに、方針(相続を承認するのか放棄するのかあるいは限定承認するか)を決める必要があります。なお、この熟慮期間については延長することができます。
また、故人の準確定申告の期限は亡くなってから4ヶ月です。故人の事業収支を把握するのは必ずしも容易ではないので準確定申告は難易度の高い作業ですが期限は待ってくれません。
これらを踏まえますと、悲しみが癒えるまで待つわけにはいきません。状況にもよりますが、1か月経った頃から相続に向き合う必要があるのは間違いありません。
いつまでに話し合う必要があるのか?
結論から言うと、遺産分割協議には期限はありません。ただ、長引くと不都合もあります。
例えば、相続税の申告期限は被相続人の死亡を知った日の翌日から10ヶ月ですが、遺産分割協議がまとまっていない場合には、一旦、法定相続分で按分した計算で申告し、後日、相続税を納めすぎている場合には更正の請求、不足していた場合には修正申告をすることになります。また、一定期間を過ぎると受けられなくなる税額軽減の特例もあるので注意が必要です。
それでは、相続税の申告が不要な場合には、放置していてもよいかといいますと、いつまでも相続登記がなされていない不動産には手続き上の不都合が発生することもありますし、この様な不都合を是正するために、2024年までには3年以内の相続登記が義務化される予定もあります。いずれにせよ、期限が無いからと先延ばしにしない方が賢明でしょう。
何を話し合うのか
誰が何をどれだけどの様な形で相続するのかを法定相続分に依らず、自由に決めることができます。ただし、「自由」といっても相続人全員の合意が無ければ、遺産分割協議を完結できないので、前述の法定相続分を目安に話し合いを行うケースが多いです。その他、「配偶者に全て」というケース、事業承継を伴う場合に事業を継ぐ相続人が運転資金等を確保できるように配慮するケース、故人の自宅不動産に同居していた相続人がそこに住み続けるために所有権を取得するケースなど様々ですが、その次に発生する相続対策なども考えて、不明な点があれば専門家に相談すると良いでしょう。
コラム「遺産相続で把握しておきたいポイント!遺産相続の方法と種類について知ろう!」の「遺産分割方法とは?」もぜひご参照下さい。
話し合いがまとまったら
遺産分割協議書をつくる
遺産分割の話し合いがまとまったら、その内容を遺産分割協議書にします。この遺産分割協議書に相続人全員が押印することで、遺産分割協議は完了します。
遺産分割協議書の作り方については、コラム「遺産相続に必要な遺産分割協議書!作成ポイントとは?」(※近日公開)をご参照下さい。
遺産を分割する(所有権を移す手続をする)
遺産の所有権移転手続をするに当たって、遺産分割協議書が必要な主な手続には、遺産分割により取得した遺産にかかる相続税の申告、不動産の相続登記、預貯金の名義変更および払い戻し、有価証券ならびに自動車の名義変更といったものがあります。
なお、金融機関によっては、遺産分割協議書に代えて所定の書類の提出を求められる場合もあり、求められる書類は金融機関ごとに異なります。遺産分割協議書にはこのような諸手続きに協力することを義務化する規定を入れておく必要があります。
話し合いがまとまらなかったら
遺産分割調停を申し立てる
当事者同士での話し合いが難しいようであれば、家庭裁判所の調停を利用することもできます。調停では、家事審判官(裁判官)と調停委員からなる調停委員会が当事者から事情を聴き、解決案を提示したり、助言をしたりしながら話し合いを進めることができます。
ただし、月1回程度のペースで開かれる調停に少なくとも3回程度出る必要があり、揉めれば1年を超えることも珍しくありません。時間も手間もかかる覚悟が必要ですし、自分の主張が通るとも限らない点をよく考慮した上で、調停の申立をするようにしましょう。
詳しくはコラム「遺産分割の調停と審判について知ろう!」(※近日公開)をご参照下さい。
遺産分割協議を弁護士に依頼するメリット
難航が予想される遺産分割協議では、他の共同相続人と顔も合わせたくなければ、声も聴きたくない、しかし、自分の権利は主張したい、といったことが多々あります。その様な場合には、弁護士を自分の代理人として、遺産分割協議を依頼することができます。
弁護士に遺産分割協議を依頼するメリットは大きく2つあります。
先ず一つ目に、依頼者の精神的負担が軽減されることが挙げられます。弁護士は依頼を受けると依頼者本人に代わって他の相続人と遺産分割の交渉を行うことができます。相続で揉めていると相手方との接触には精神的苦痛も伴いかねませんが、自分の権利を主張するためには話し合いは避けられません。こうした場合に、依頼者以上に法的知識と交渉経験の豊富な弁護士が落としどころをわきまえて、依頼者の代わりに話し合いを進めていくので、依頼者本人が感じる遺産分割協議による精神的苦痛や不満などの軽減が期待できます。
そして二つ目に、事務手続が代行されることで手間と時間の負担軽減になることが挙げられます。例えば、遺産分割協議において一定の結論をみたにも関わらず、他の相続人の押印が得られないなどの理由でいつまで経っても遺産分割協議書が作成できない、遺産の分配に必要な手続が進まないなどのトラブルは往々にして起こります。この様な時間経過の内に、一度まとまった分割協議案がご破算になるといったことも無い話ではありません。遺産分割協議書の作り方については、コラム「遺産相続に必要な遺産分割協議書!作成ポイントとは?」(※近日公開)で説明しますが、作り慣れない書類の作成がストレスに感じられたり、ついつい作業が後回しになったりもするものです。遺産分割は、協議書の作成がゴールでは無く、その後、遺産分割協議書に基づいた遺産分割のための手続を完遂することが最終ゴールです。遺産分割協議を弁護士に依頼すれば、協議がまとまった後、間髪入れずに分割協議書を作成することも可能になります。また仮に、遺産分割協議がまとまらなかった場合にも、調停に移行するのに必要な手続を迅速におこなうことも可能になります。
まとめ
遺産分割協議は、故人の遺産を相続する際には必ず行われる話し合いです。故人の遺志である遺言書が無い限り、何をどう相続するかは相続人となる遺族の話し合いに委ねられています。それだけに相続人それぞれが自己に都合の良いことばかり主張していては、いつまで経っても話し合いはまとまりません。相続人同士での話し合いに限界を感じたら、法的なことは専門家に確認したり、代理人として弁護士を依頼するなども視野に入れたりなどして、早期解決を目指すのも一案です。